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2011年1月14日金曜日

新潟大学人文学部「人文総合演習B」 第11回 高橋洋一『日本経済のウソ』

対象文献:
高橋洋一,2010,『日本経済のウソ』,ちくま新書



ええと、今回の本は、ちょっと失敗だったなと思うところなきにしもあらずでして・・・ 下のコメントにも、わからなかった、難しかった、という声が寄せられていますが、学生のみなさんの勉強不足とか能力不足というよりは、本のつくりが雑すぎるということでしょうかね。なんか最近こういうその場限りで売れたら儲けもんみたいな新書多いよね・・・

同じような話でも、こっち↓にしたらよかったな、と今更ながらに反省です。岩田本は、中身がきちんと整理されていて、論旨が明確でした。今回ので、わからなくて悔しい思いをした人は、是非どうぞ。

さて、そのような苦境でも、きちんとレジュメをつくって報告・コメントが成立し、司会者のもとで会が成り立つというのは素晴らしいなと思います(学生を褒めることで教員が責任転嫁をしているように見えるかもしれませんが、たぶん気のせいです・・・)。

報告者の議論ですが、一人はデフレの問題を、大卒就職率の低下の問題に落とし込んで論じました。何かが問題である、というときに、近い将来自分たちが直面することになる危機と絡めて、その問題性を際立たせるというのは、報告として有効な戦略です。

もう一人は、現在の市場には魅力的な商品が多く出まわっており(商品の魅力が昔よりも低下するなんてことは起こりにくいはずですよね)、魅力的な商品が多いなら需要が高まって物価が上がるはずなのに、実際はデフレであるという事実から出発して、このギャップこそが金融という問題の在り処だと指摘しています。もちろん、その問題の輪郭をきちんと描いたり、ましてや十全な解決を与えるということが、学生のゼミ報告ごときでできるわけはありません(うちなんて人文学部の1年生なわけだし)。しかし、ぼんやりとでも問題の気配を察知すること自体が、非常に重要な学問的発見だということも事実です。

さて報告者は二人とも、自分たちにできること、やらなければならないこと、を示唆するという方向で議論を締めています。これは、若者の議論として(?)、自分の人生に対して前向きで建設的ではあるように思いますが、しかしそこで議論を止めてしまうと、問題が解決されないことが、あたかも個々人、とくに若い人たちの努力不足、怠惰のせいになってしまいがちです。これは、本来その問題に対して責任を負わなければならない人たちにとって大変に好都合な事態です。若者批判してればいい、ということですから・・・

実のところ、個人にとって前向きで建設的なことが、全体にとっては後ろ向きで非建設的だったりすることがよくあります。議論をこの陥穽にはまらせないためには、自分たちの努力目標を示すと同時に、その限界をも示すべきでしょう。つまり個人の努力では越えがたい壁の存在を示すことです。それが「制度」の問題につながるわけですが、個人の努力の議論を介したことで、その輪郭がより明確に見えてくるはずです。(ここでは「制度」という言葉を、個人の行動の前提になるがゆえに、個人の行動によっては変更できないもの、というような意味で使っています。)

さてここで、この文章の冒頭に戻ってもらえば、私が、今回の文献選択について反省しつつ、それにとどまらずに、近年の新書出版のあり方に対して批判的なコメントをしていることに気づかれるかと思います。これこそが、まさに、個人の努力不足を指摘した上での、制度論的問題領域の開示に当たるわけですね!



以下、出席者のコメント。

  • 今回の本はあまり理解することができませんでした。しかし、これを機に少しずつ経済について勉強してみたいと思いました。

  • 経済についてもっと知るべき、というのは賛成だが、多くの人は、つい先日の私みたいに、こういう本を読んで自分の無知を思い知らされないと経済を勉強しないと思う。大人として最低持っていないとやばい知識は今のうちに持っていたい。とりあえず池上本買います。

  • 今回の本は、読んでも全然理解できませんでした。でも今回の議論を通して、少しではあるけど理解が深まったと思います。また、経済の話題であっても、マスコミや教育、政治など様々な問題に関連していることがわかりました。

  • 今回の本は難しかったので、自分の考えや意見が自分でもわからなくなるし、報告者への質問も正直、どこを質問すればいいのか、という感じがあった。経済学を勉強するということが、議題にも上ったけれど、やっぱり専門じゃなくてもある程度の知識は必要だと感じた。

  • 経済に関する話題は苦手だったので、とっつきにくいという印象があった。今回、本を読んだり、自分ではあまり発言できなかったけど周囲の議論をきいていて、興味や関心が深まって良かった。自分自身でこれからも新聞などで見ていきたいと思う。

  • 経済についてよく分からないことが多く、考えがまとまらなかったが、とりあえず自分ももっと経済について関心をもつべきであると感じた。

  • 経済をよくするために私たちができるのは、やっぱり独学で経済を学ぶしかないのだと、この議論がすすんでいくなかで痛感した。

  • 報告者の感想  まず本がむずかしくて大変でした。みなさんの質問や意見にも上手くこたえられずに申し訳ありませんでした。コメントとか残っているので、そっちもがんばります。

  • 報告者の感想  物事にメリット・デメリットがある話が興味深かった。「全体にとってのメリット」が、「個人にとってのメリット」の数、量の多さ、大きさで表されるのか、それとも別の観点ではかられるのか。また経済を勉強して、政党を選ぶ際の材料がふえたとき、「全体のメリット」を考えるといっても、必ず不利な人も有利な人もでるので、経済勉強した人が自分のメリットとなる方を選べるということなのかなと思った。

  • コメンテータの感想  今回コメントに対する意見やつっ込みが多く感じた。なるほどと思わず納得してしまうことも度々あり、自分の見方というのはやはり狭く、他の人の意見によって気づかされることが本当にたくさんあるのだと痛感した。それにしても、今回の本は全然わからなく、読むのが大変だった。

  • コメンテータの感想  自分の生活がかかっている問題なのに、他人事のようにとらえていたと思う。知らなければ自分が取ることのできる対策にも乗り出せないだろうと思った。自分の意見がぶれがちなので、根拠をしっかり持ちたいと思った。

  • 司会者の感想  経済についての話はむずかしくて、なかなか理解しにくい本であった。それでも議論がスムーズに行うことができたように思う。このことから皆の経済に対する意識がある程度高いのでは、と感じた。

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